このブログは私、中野新一が、ランバ・ラルを名乗り、彼が生きていて、現在の日本で生活していたらどんな事が起こるのか。その社会実験的試みの記録です。

みなさま、こんにちわ。
エナジー中野でございます。
善人づらの卑怯者といわれた、
わたくし中野の必殺技は、
「中野サーブ」でございました。
これは、先述しました、
朝夕の家の前の資材置き場で行った
秘密の特訓の結果、会得した技でございます。
もともと球技に暗いわたくしは、
ラリーの末、打ち勝つという事は考えられない事でございました。
そんなわたくしが勝機を見い出す方法は、たったひとつ。
試合の始めのジャンケンに勝ってサーブ権を取り、
相手に絶対とれないサーブを放ち続けて勝つという戦法でございます。
この作戦ですと、
技量と裁量が必要なラリーはしなくて済みますし、
足の遅いわたくしが、
ボールを追ってあちこち走り回らなくても
済むのでございます。
その中野サーブというのは、
ボールを頭上に上げて、
普通に力一杯サーブを打つのでございます。
まったく強力なボールが放たれると誰もが思う
フォームとスィングなので、
レシーブする側は、
身構えて深めの位置に構えるのでございますが、
大きな音で放たれたボールは、
思ったより、ゆっくりなのでございます。
そして、ボールはややカーブを描きながら着地。
しかし、ボールは着地したまま、
ほとんどはずまず、
そのまま転がってゆくのでございます。
ボールがはずまない。
ボールがはずまなければ打ち返される事もございますまい。
これ以上の必殺技がございましょうか。
わたくしがテニスが下手な訳は、
グリップの甘さと、打面のおかしさが原因でございました。
本来ボールを打撃する瞬間にグリップをにぎり、
力を伝達するのですが、
わたくしは、どうやらボールを打った後ににぎっているようなのでございます。
つまり、ふわふわした状態でボールを放っているのでございます。
また、あの8角形のラケットをにぎりますと、
わたくしはどうしても打面が上を向いてしまうくせがございました。
わたくしは苦心のすえ、
これらの問題を克服することなく、
最大限生かした技をあみ出したのでございました。
中野サーブとは、
いいかげんににぎったラケットで、
ななめに向いた打面を生かして、ななめに振り抜き、
ボールに極端な回転を加える技でございました。
放たれたボールは、
目視できるくらい横長に変型するのでございます。
揚力のような力が発生し、
最初はなかなかサービスエリアに入らなかったのですが、
特訓の末、立ち位置と身体の向きで調整できる事を悟り、
ついにこの魔球を意のままに操る事ができたのでございます。
とはいえ、すぐに相手も学習し、
立ち位置を浅めにし、対応してくるのですが、
この魔球の恐ろしい点は、
慎重に打ち返そうといたしますと、
打った瞬間ボールが左にそれ、
サイドアウトしてしまうのでございます。
それくらい猛烈な回転をしていたのでございます。
ボールの回転の影響を受けないくらい強めに返球しましても、
バウンドの高さがありませんので、
ネットにひっかかるか、
バックアウトでございます。
よしんばうまく返球されましても、
必ずわたくしの右寄りにしか返球されませんから、
わたくしのしもべの前衛の餌食になるか、
楽なフォアハンドで、返球できるのでございます。
しかも、この頃になりますと、
辺境のCコートで、
先生にまったく指導されず、
ほったらかしで勝手に進化した
わたくしのテニスは、
すっかり独自のスタイルを確立しており、
あらゆる打球に、
なにかしらの変化が発生していたのでございます。
硬式のテニスでも、
打球に回転を加えるカット打法はございますが、
軟式テニスでつかう庭球は、
ふわふわのゴムボールでございますので、
その効果は絶大でございます。
それゆえ、
「おまえと打ち合ったら、こっちまで下手になる」と
ハイソサエティーなAコートの連中からは
忌み嫌われたのでございます。
いいさか君や、かねこ君も、
多かれ少なかれ、そのような待遇をうけ、
セコキントリオはますます孤立を深めていったのですが、
当のわたくしたちは、
真面目に練習するAコートの連中をよそに、
4つ葉のクローバーを探したり、
コートの端に穴を掘って、
ラケットでゴルフをしたりしながら、
楽しく暮らしていたのでございました。
そんな、晩秋のある日。
3年生がおおかた引退してしまい、
選手の出場枠に空きができたというので、
わたくしたちに公式戦への参戦が、
いいわたされたのでございました。

みなさま、おはようございます。
エナジー中野でございます。
いいさか君の必殺技は、
仲間のわたくしたちでさえ、
目を覆いたくなるような、
恐ろしい技でございました。
彼は顔がどじょうに似ていたので、
どじょうというあだ名をもっておりました。
つまり、
なかなかにユニークな面構えだったのでございます。
性格はおおむね温厚で、
何が楽しいのか、
いつもニコニコしているのでございますが、
些細な事にすぐかんしゃくをおこす事も、
彼のキャラクターでございました。
そう、彼の必殺技は、
この顔と性格だったのでございます。
いいさか君は、
試合の最中に対戦中の相手に対して、
自分の尻をむけて、ラケットで叩いて挑発するのでございます。
そして、
相手が失敗いたしますと、
とても楽しそうに、
大きい声で「べー」といいながら。
「あかんべー」をするのでございます。
さすがに相手も怒り出します。
いいさか君をにらんでおります。(`д´*)
応援しているわたくしたちは、
彼の試合は恥ずかしいので、
仲間だと思われないよう、
遠まきにながめているのですが、
彼は試合の最中だというのに、
そんなわたくしたちを見つけ、
わざわざやってきて、
「みてみ、あいつ怒ってるで。( ̄ー ̄)」と、
楽しそうに報告をするのでございます。
しかし、
もともと彼もテニスが上手ではございませんので、
次第に相手に翻弄されはじめるのでございます。
するとどうでしょう。
今の今まで、
ごきげんで相手をからかって、
相手のミスを馬鹿にしていたくせに、
自分が劣勢になると、
烈火のごとく突然怒りだし、
意味もなくボールをネットにバンバンぶつけたり、
相手にサーブのボールを渡すのも、
「そんなにボールがほしいんか。ほらやるわ。」
と大声で叫びながら、
ひどい暴投でボールを渡すのでございます。
相手は、なにがなにやら
さっぱり訳がわかりません。
さっきまで自分が馬鹿にされて
怒っていたのに、
いつのまにか、
いいさか君の機嫌をとらなければ、
まともな試合ができない状態に
なってしまっているのでございます。
こんなに気を使わなければならないテニスが
他にございましょうか。
相手は、勝っても負けても、
後味悪くコートを後にするのでございます。
当のいいさか君は、
ひとしきりかんしゃくを起こしましたら、
いつのまにか、けろっとしており、
何にかんしゃくを起こしていたのか、
勝手に忘れてしまうようなのでございます。
おちょうし者のかんしゃく持ち。
怒りの道化師といわれた、
彼の必殺技でございます。

みなさま、おはようございます。
エナジー中野でございます。
先生の目の届かない劣悪な辺境のテニスコート、Cコートでは、
今日も勝手なテニスがくりひろげられておりました。
ルールや用語も自分達で勝手に作っていたので、
今となっては、
何が本当で何が独創なのか、
わたくし本人もよくわかっていないのでございます。
もっとも、砂利を敷きつめたようなコートでございますので、
そもそも、まともなテニスができるわけがございません。
この環境を楽しく生き抜くためには、
独自の文化をはぐくむ必要があったのでございます。
そんなわたくしたちが日々熱心にとりくんだテニスは、
「必殺技」の開発でございました。
まともにラリーができないコートで勝つためには、
一撃必殺の技の修得が重要だったのでございます。
わたくしも、自宅の前の建築資材置き場で、
暗くなるまで熱心に
自主練習したものでございました。
この努力を、
必殺技の開発ではなく、
普通の練習についやしたならば、
多少の技術の向上もあったのかもしれませんが、
その時のわたくしの頭のなかには、
あっと驚く必殺技を会得し、
みんなからウケをとる事しか
思いうかばなかったのでございます。
やがて1年の秋ごろになりますと、
そんな熱心でひたむきな情熱が実を結び、
この地獄のCコートから、
恐るべき必殺技を駆使する、
3人の猛者が出現したのでございます。
ネット際の詐欺師といわれた、かねこ君。
怒りの道化師といわれた、いいさか君。
そして、
善人づらの卑怯者といわれた、わたくし中野でございました。
当時、人はわたくしたちを、
怒りと屈辱をこめてこう呼んだのでございます。
「舞鶴のセコキントリオ」と。
ちょうどそのころ、TBSドラマ「3年B組金八先生」が
たいへん人気でございまして、
なかでも、ジャニーズ事務所に所属していた
田原俊彦・野村義男・近藤真彦の3人の人気はぐんをぬいており、
3人の姓名の頭文字「田・野・近」をとった
「たのきんトリオ」という名称が、
流行しておりました。
ただ、セコい手を使う3人組というだけで、
われわれは、
「セコキントリオ」と呼ばれたのでございます。
もともとわたくしたちは、
Cコート出身の実力の無い人間でございますので、
我々が試合で勝つためには、
ルールの盲点をついたり、
テニスコートや、軟式テニスの構造的欠陥を利用したり、
あるいは、人の心の弱味につけこむといった、
独創的なアプローチしかございませんでした。
その効果を最大限発揮する必殺技を駆使し、
他校や、同じ学校のテニス仲間にさえ、
忌み嫌われ、対戦を避けられた3人組。
それが、「セコキントリオ」だったのでございます。
例えば、
ネット際の詐欺師といわれた、かねこ君の必殺技は、
セカンドレシーブでした。
テニスはまず、対角線上のサーバーが打ったサーブを、
レシーバーが相手コートに打ち返して、
試合がはじまります。
サーブには2回チャンスがあり、
通常1回目のサーブは高速で打ってきます。
実力の無いわたくしたちは、
このファーストサーブは絶対とれませんので、
最初から相手にいたしません。
わたくしたちセコキントリオの勝負は、
ややゆっくりめに打ってくるセカンドサーブから
始まるのでございます。
かねこ君が得意とした必殺技は、
このセカンドサーブにつけこんだ恐ろしいレシーブで、
卓球の変化球のように、
ラケットを下に半円を描くように振り抜き、
ボールに変化を加えながら、
相手コートのネットの脇に打ち返すというもので、
この、かねこ君のセカンドレシーブが決まれば、
わかってても絶対とれなかったのでございます。
この打球を唯一フォローできるのは、
前衛という、ネット際の選手ですが、
この事実に気づかせるのが、
かねこ君の卑怯なところでございまして、
前衛がファインプレーでこのへんてこな打球をなんとか拾っても、
ネットの高さと、ボールの位置から、
甘いロブ(放物線をえがく打球)しか
上げられないのでございます。
この時、かねこ君は本来後衛で、
レシーブしたら、後ろにいなければならないのに下がらず、
ネット際にしゃしゃり出て、
相手が苦心して返球した甘いボールを、
ハエでも落とすかのように、
相手コートに叩き込むのでございます。
軟式テニスのボールの性質。
コートの構造を考えますと、
これは禁じ手にすべき必殺技でございますが、
「合法な卑怯。」
このスタイルこそが、
セコキントリオの真骨頂だったのでございます。

みなさま、おはようございます。
エナジー中野でございます。
わたくしは中学時代テニスクラブに入ってございました。
テニスと申しましても、軟式テニスでございまして、
あの可愛らしいシャラポアさまが、
必死になって追いかけている、
うぶ毛の生えたような硬いボールではなく、
ぷにぷにのゴムのボール。
いわゆる庭球というものを使うテニスでございます。
ルールは基本的に変わりませんが、
1点入ったときに、
15-0「フィフティーン・ラブ」とはいわずに、
1-0「いち対れい」と申しておりました。
わたくしの通っておりました、
白糸中学校のテニスクラブは、
女子のテニスコートは校内にあったのですが、
男子のテニスコートは、
学校からだいぶ離れた場所にございました。
当時は不満がございましたが、
今から思えば、
見ばえの問題で、やむを得ないところでございます。
その、学校から2キロほど離れた
山のふもとのわずかな平地にございます、
男子のテニスコートは、
全部で3面ございまして、
奥から、Aコート、Bコート、Cコートと
呼ばれていたのでございます。
Aコートは、
乾いた咽を潤してくれる命のオアシス、
水道のもっとも近くにあり、
プラタナスの木陰のベンチはたいへん居心地がよく、
地面はよく整地され、どこまでもフラットで、
コートの水はけも抜群。
やや白みをおびた粒子の細かい土の輝く、
たいへん美しいテニスコートでございました。
Bコートは、
やや劣りまして、
雨がふれば水たまりができ、地面には凹凸もございまして、
コートの色も、やや赤みを帯びた感じでございました。
Cコートは、
さらに劣悪で、
荒野に、穴のあいたボロボロのネットが立っているだけで、
水はけが悪く、地面は砂利を含んだ赤土で波打っており、
ベンチのそばのキンモクセイの木からは、
トイレの臭いがただよう、
地獄のようなテニスコートでございました。
誰もが一目瞭然で、
Aコートを使いたいところでございますが、
そこは先生も考えたものでございまして、
テニスの上級者が、Aコート、
中級者が、Bコート、へたくそがCコートという、
インドのカースト制のような、身分制度をもうけまして、
生徒の向上心をあおったのでございます。
つまり、
下級生でも、テニスが上手になれば、
セレブなAコートで、
監督の庇護のもと優越感につつまれて、
充実した練習ができ、
テニスがへたくそな者は、
これといった指導をされるでもなく、ほったらかしで、
いつまでたっても、
キンモクセイの香りにつつまれて、
どっちへバウンドするかわからないボールを
追いかけ続けなければ、
ならなかったのでございます。
父のスポーツへの無関心から、
球技というものにおよそ触れた事のなかった
当時のわたくしは、
当然のようにCコートの住人でございました。
ところが、
1年間以上もそのような粗悪な環境におりますと、
人間には様々な変化がおこるものでございます。
さまざまな方向へバウンドするひどいコートのおかげで、
ボールを確実に打撃する瞬間まで、
ボールの行方を信じてはいけないという、
疑惑の動体視力を獲得し、
監督の先生がほったらかしているのをいいことに、
勝手なルールを作って、
通常、軟式テニスの試合は、
前衛、後衛のダブルスで戦うのですが、
試合の最中、
「必殺!トリプルアターック!!」
のかけ声を合図に、ベンチにいた一人がコートに乱入し、
中衛となって、
3人のコンビネーションで戦う戦法を、
あみだしたのでございました。
今流行りのスキージャンプペアの前身でございます。
http://www.page.sannet.ne.jp/masm/
この画期的な戦法は無敵をほこりました。
実戦を想定した、多くの練習のメニューは、
相手がサーブを打った瞬間や、
レシーブをした瞬間に、コートにできる死角を狙って
攻撃をする練習をいたします。
つまり、セオリーどうり練習をしている相手の打球ほど、
どこに打ってくるのか予測がつくのでございます。
ほんらい人がいないはずのそこへ、
3人目があらかじめ待ち構えているものですから、
相手は大混乱でございます。
真面目で上手な人ほど罠にはまりやすく、
ときおり、
「練習してやる」と称して、
冷やかしにCコートにやってくる
悪代官のようなAコートの連中は、
このトリプルアタックをはじめ、
オリジナリティー溢れる数々の卑怯な戦法に、
「阿呆らしくてやってられない」と、
しっぽをまいて自分達のすみかへ
帰ってゆくのでございました。
やがてこの地獄のスラム街から、
わたくしをはじめとする3人のヒーローが、
ささやかな奇跡をおこすのですが、
それはまた別の機会にお話しいたしましょう。
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