慈恩弘国営業日報0080510
わたしの名前はランバラル。
数知れぬ死線をくぐりぬけてきた、
元ジオン公国の軍人だ。


宇宙世紀008 5月10日(土)


今日は、
わたしとハモンの13回目の結婚記念日だ。

結婚記念日とクリスマスには、
三条通りにある、
「ノルマンディー」という南仏料理店で食事をするのが、
わたしたちのきまりになっていた。

しかし、
10年以上通ったその店は、
3年ほど前に閉店になった。

年に2回しか行かないわたしたちの名前を、
いつのころからか、主人は覚えてくれていた。

店の壁にかけてあった、
どこかの海岸の小さな絵が、
わたしは気に入っていた。

ある日、その絵が、
かわいらしい猫の絵に変わっていたので、
前の絵をゆずってくれるようお願いしたところ、主人は、

それは、何かの雑誌の切り抜きの絵で、
まだとってありますから、
今度おゆずりします。と笑顔でこたえてくれたが、

結局その絵が、
わたしの手元に届くことは無かった。


ある日、
ノルマンディー閉店の知らせの手紙が届くと、
店の常連は、
こぞって詰め掛けた。

閉店の理由を、
誰もが、かわるがわるたずねた。
もちろん、わたしもたずねた。

何度もくりかえされたその質問に、
主人は笑顔で答えてくれた。

「わたしの料理が古くなったからです。」

「そんな事はない。
 こんなに美味しいし、
 こんなにこの店を愛してくれている人が
 いるじゃありませんか。」

「いえ、もう古いんです。」

「じゃあ、時間のある時、料理教室とかやってください。
 この味を絶やすのはもったいない。
 せめて、この鯛のカルパッチョだけでも、
 いや、バジルソースだけでも。
 第一あなたは、
 わたしがこの店に来て最初に食べた、
 美味しい地鶏のソテーを、
 2度と食べさせてくれてないじゃありませんか。」

美味しい地鶏のソテーとは、
わたしがハモンと結婚するまえ、
当時、この店の近くに住んでいたハモンに連れられて
初めてこの店で食べた料理だ。

丹波産の地鶏を、
にんにくと岩塩で味付けした、
とてもシンプルな料理だが、
その美味しさに、わたしは驚嘆した。

以来毎年、
結婚記念日には、
この料理を注文するのだが、
見た目も調理方法も、
毎回微妙に変わっていて、

最初に食べたものとは違っていた。

もちろん、すべてが美味しい。
しかし、ちがう。

なので、毎回どこが違うかを指摘して、
毎年注文し、毎年食べた。

この美味しい地鶏のソテーも、
結局、再びわたしの口に入ることは無かった。


主人は、
自分の持っている技術の全ては、
長年店に仕えた一人の弟子に仕込んだという。

わたしは、主人がダメなら、
その弟子の女性に店を持つようお願いしたが、

女性はそのつもりは無いという。

わたしは釈然としなかった。
こんな至福を味わわせておいて、
次につながる希望が何も無い。
あまりにもひどいものである。


しかし、
次に主人が、付け加えるように言った言葉で、
わたしは観念せざるをえなかった。


「やりたいことを見つけたんです。」


主人は、それがなんであるのかは、
どの客にも笑顔でしか語らなかった。




あれから3年。

今朝、
花屋さんが花を届けてくれた。
もちろん、心当たりなどない。

080510hana


差出人はララァ中尉からであった。
メッセージカードには、
「ジオンの母、ハモンさんへ」と
書かれていた。

すぐに、
まだ眠っているハモンの枕元において、
目を覚まさせた。

結婚記念日の朝は、
視界いっぱいの花ではじまった。

ハモンは大喜びだった。



今日は、店の営業日でもあった。

営業がはじまると、
マイミクの、ばなさんが家族で来てくれた。
まだゴールデンウィークの混雑の名残りがあり、
遠方からのお客さんも多く、
わたしは、ゆっくりお話できなかったが、

結婚記念日のお祝いです。といって、
プレゼントをくれた。

ハモンのブログで今日が特別な日であることを
知ったそうである。

2階でネギを切っていたハモンにそのことを伝えると、
すぐに降りてきた。

ハモンとばなさんは意気投合したようで、
しばらく楽しそうに話していた。



先日、
ご飯の炊き方を失敗し、
まずい焼きメッサーラを食べさせられた、
ポセさんが来てくれた。

ポセさんは、
再び焼きメッサーラをご注文され、
わたしにリベンジの機会を与えてくれた。

店が混んできて、
キャベツを切りにハモンが再び2階へあがるとポセさんが、

「ハモンさんはまた下りてこられますか?」とたずねられたので、

「ええ、キャベツを切って、
 持って下りてくると思いますよと答えた。」

しばらくしてハモンが下りてくると、
突然ポセさんが立ち上がり、

「作戦開始10秒前。」と叫んだ。

と、同時に店のお客さんも全員立ち上がった。
ポセさんがカウントダウンをはじめ、
ゼロを告げるとみんなで、

「ハモンさん、ラル大尉、
 ご結婚記念日、おめでとうございます。」といって、

敬礼をしてくれた。

わたしとハモンは、ポカンとしていたと思う。

そんなわたしたち夫婦にポセさんが、
手作りのジオンの紋章の包み紙でくるんだ
プレゼントをくれた。

080510set


店にずっといたわたしにさえ、
いつのまに、お互い見知らぬどうしのお客さんが
このような趣向を申し合わせていたのか、
気がつかなかった。

わたしは、こみあげるものをなんとか抑え、
感謝の言葉をのべた。
どんな言葉でも、この感謝を伝えるのには、
不十分な気がした。



次の日、

開店前のいつもの時間に、
フラウボウ2号が紙袋を持ってやってきた。

フラウボウ2号は、

「本当は、昨日持ってきたかったのですが。」と言いながら、

その紙袋をわたしに差し出した。

「うちではお祝い事があると、
 お母さんがケーキを焼くんです。
 これは、ハモンさんと大尉の結婚記念日のお祝いです。
 わたしが焼いたので、どうかしれませんが、
 よかったらどうぞ。」

と言ってくれた。

箱を開けてみると、
クリームの上に、
大きなジオンの紋章の入った、
クルミのホールケーキが入っていた。

ひと目で、手間と心がこもっていることがわかる、
迫力とかわいらしさを兼ね備えたケーキだった。


営業がはじまると、

ハマーン様がドレン軍曹とともにやってきた。
ハマーン様はいつものように、
すでにどこかでお酒を召し上がっておられた。

「これ、あげる。」といって、
なかなか良い、ズゴックの人形をくれた。

080510cake



閉店後、
2階のリビングで、
わたしはハモンと、
フラウボウの焼いてくれた美味しいケーキを食べながら、
13回目の結婚記念日は、
忘れられないものになったことを話し合った。


たくさんの人から、
いろんなものをもらった。

想い、言葉、プレゼント。

最後にハマーンさまが、ホイとくれた、
ズゴックの人形のプレゼントの意図は
微妙ではあるが、

この店の事を気に入ってくれて、
プレゼントしてくれた事には、
ちがいありますまい。


思えば、
人に結婚記念日を祝ってもらった事など、
今までほとんど無かった。
こんなに嬉しいことは無い。と、
心から思う。


毎年、ハモンと二人で結婚記念日に通っていた
南仏料理店ノルマンディーは、もうどこにも無い。

ノルマンディーに替わる素敵な店を探すことが、
ここ何年かの、二人の課題になっていた。

それはそれで続けるとして、
今わたしには、もう一つ課題ができた。


それは、私自身が、
この、お好み焼き慈恩弘国が、
ノルマンディーのように、

人に愛され、人を愛す店になることである。

それだけが、
みなさんからいただいた、
慈愛の気持ちに応える手段であると、
確信する。


わたしは、
慈愛と恩恵に満ち満ちた理想国家。
ジオン公国復活の、悲願達成への決意を、


甘さ控えめのケーキを噛み締め、
新たに固めた。




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本日のクルー
店長:ランバラル大尉、 オーナー:ハモン
捕虜:フラウボウ2号、フラウボウ3号、
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お好み焼き「慈恩弘国」
http://www.ms-06zaku.com/
2008/05/14 | 慈恩弘国営業日報 | コメント(2) | トラックバック(0) | page top↑
コメント
うちの猫達の餌食になりそうなんで、大尉のとこにお嫁入り~って酔った勢いで持っていきました。結婚記念日ならば、嫌がらせのような赤い機体は持っていかないです(^_^;)
2008/05/16 02:49 | URL | ハマーン #- [編集] | page top↑
#ハマーンさま

いつもありがとうございます。
中国では赤はたいへん縁起のいい色なので、
ちょうどよかったです。

これからも宜しくお願いいたします。
2008/05/16 16:02 | URL | ランバラル #- [編集] | page top↑
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